大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(ワ)18417号 判決 1994年8月25日

原告

有限会社ステラインターナショナル

右代表者代表取締役

福井清志

右訴訟代理人弁護士

岡村了一

前嶋繁雄

鈴木勝利

齋藤大

被告

社団法人日本自動車連盟

右代表者理事

泉勝

右訴訟代理人弁護士

森美樹

森有子

主文

一  原告の主位的請求のうち、「被告は、平成五年八月一日スポーツランドSUGOにおいて行われた一九九三年度全旧本F三〇〇〇選手権第六戦の競技中に競技会審査委員会が原告のドライバーのアンドリュー・G・スコットに対して宣告した一周減算のペナルティを課するという罰則を取消せ。」との請求を却下する。

二  原告のその余の主位的請求を棄却する。

三  原告の第一次予備的請求を却下する。

四  原告の第二次予備的請求を棄却する。

五  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

(主位的請求の趣旨)

1 被告は、平成五年八月一日スポーツランドSUGOにおいて行われた一九九三年度全日本F三〇〇〇選手権第六戦(以下「本件競技」という。)の競技中に競技会審査委員会(以下、単に「審査委員会」という。)が原告のドライバーのアンドリュー・G・スコットに対して宣告した一周減算のペナルティを課するという罰則(以下、「本件ペナルティ」という。)を取消せ。

2 被告は、本判決が確定した翌月の最初に刊行されるオートスポーツ誌の誌面一ページに別紙記載の謝罪広告を別紙記載の条件で掲載せよ。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

(第一次予備的請求の趣旨)

1 被告は本件競技の競技中に審査委員会が原告のドライバーのアンドリュー・G・スコットに対して宣告した本件ペナルティに対する原告の平成五年八月三日付控訴(以下、「本件控訴」という。)を受理せよ。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

(第二次予備的請求の趣旨)

1 被告は原告に対し、金一五〇万円およびこれに対する平成五年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  被告

1  原告の主位的請求および第一次、第二次予備的請求を、いずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

(主位的請求)

1(一) 原告は、被告が公認しかつその統轄下で開催される自動車競技に参戦することにより、報酬を得て依頼者のために広告宣伝活動をすることを主たる営業とする有限会社であり、被告は自動車に関する交通法規、税制、保険等の調査研究、交通安全活動の推進などの事業を行うと共に、国際スポーツ法典に基づく権能の行使および自動車スポーツの運営ならびに記録の公認をする目的で設立された社団法人であり、国内における自動車競技を管理統括する立場にある。

(二) 平成五年八月一日、宮崎県柴田郡田村町菅生所在のスポーツランドSUGOにおいて被告の公認のもとに一九九三年度全日本F三〇〇〇選手権第六戦(本件競技)が行われ、原告も参加したが、本件競技は、国際スポーツ法典とその付則(乙第二、三号証)、国内競技規則とその付則(甲第一号証、乙第四号証)、一九九三年全日本フォーミュラ三〇〇〇選手権統一規則(乙第五号証)および本件競技特別規則(乙第六号証)にしたがい開催された国際格式の競技である。

2 本件競技中、本件競技において順位を決定し、規則違反に罰則を課す権限を有する審査委員会は、原告が出場させたカーナンバー20の自動車(運転者はアンドリュー・G・スコット、以下「カーナンバー20の自動車」という。)に対し、同自動車が八周目の周回中に追越しが禁止される区間である黄旗表示区間内でカーナンバー25の自動車(運転者はロス・チエバー、以下「カーナンバー25の自動車」という。)を追越したことを理由として一周減算のペナルティを課するという罰則(本件ペナルティ)を決定し、これを三四周目の周回中に場内アナウンスで発表するとともに審査員が三六周目の周回中に原告代表取締役に対し、「黄旗区間の追越しにより、一周減算のペナルティを承認する」という趣旨の書面を提示し、これにサインを求めてきた(原告代表取締役は、これを拒否した。)。

3 しかしながら、この決定は次のとおり誤りである。すなわち、

本件競技の七周目の周回中、一コーナーにおいて二台の自動車が接触事故を起こし、事故現場の直前のポスト(公認審判員らがレースを看視する場所)では黄旗の振動表示がされ、事故現場より一つ手前のポストでは黄旗の不動表示がされ、事故現場の次のポストでは緑旗が表示されたところ、この不動表示黄旗から緑旗のポストまでの区間が追越禁止区間である。そして右黄旗の不動表示がされたポストはコントロールライン(その箇所を車両が通過するときに計時される線)より二〇メートル先の地点のメインポストであった。一方、七周目の周回においてカーナンバー20の自動車はカーナンバー25の自動車を追走して並び、計時委員の測定によれば両車はコントロールラインを一〇〇〇分の一秒の誤差なく同タイムで通過し八周目に入った。したがって、コントロールライン通過時に両車は完全に並走していた。そして、七周目の周回のタイムはカーナンバー20の自動車の方が速かったのであるから(カーナンバー20の自動車は一分一三秒七二四であり、カーナンバー25の自動車は一分一五秒一五〇である。)、コントロールラインを通過した次の瞬間にはカーナンバー20の自動車は、カーナンバー25の自動車より前に出ていたのであって、八周目の黄旗追越禁止区間に突入した時点以降に、カーナンバー20の自動車がカーナンバー25の自動車を追い越すことはあり得ないのである。

なお、「追越」とは後方から前車に追い付き前車の前に出ることであるから、並走してる車が前に出ても「追越」とならないことは公知の事実である。

4 原告代表取締役は、本件ペナルティの発表後直ちに(三六周目の周回中)中村靖比古競技長および競技会審査委員に抗議をしたところ、中村靖比古競技長は「今は競技続行中なので、競技終了後に関係ドライバーを交えて協議しよう」と提案し、また、審査委員会は国内協議規則一三―五(2)の部分のコピーにアンダーラインを引いて、「この決定に対し控訴するなら、国内競技規則一三―五(1)の手続にしたがってJAF(被告)に二日以内に控訴の上申書を出して欲しい」と指示した。

5(一) 原告は、審査委員会の指示にしたがい、平成五年八月三日に国内競技規則一三―二(1)、一三―三、一三―五(2)に基づいて被告に対し本件ペナルティに対し控訴の上申書を提出した(本件控訴)。

なお、すべての競技参加者は審査委員会が課した罰則に対し被告に控訴する権利を有する(国際スポーツ法典一八一条、国内競技規則一三―二)

(二) しかしながら、被告は本件控訴は本件ペナルティの決定後一時間以内に提出されていないから国際スポーツ法典第一八一条、第一八五条に違反するという理由で本件控訴を却下し、審問や裁定を行わない。

6(一) 国内競技規則一〇―一二によれば、被告は審査委員会の報告その他によって規則違反や競技結果の不適正または過誤が生じたことを知った場合には、たとえこれに対する抗議または控訴がなされていないときでも、その事情について質す権限を有し、かつ当事者に弁明の機会を与えた後これを適正化する義務を負っている。

(二) 本件競技中に審査委員会が決定した本件ペナルティには前記の過誤があるのであり、被告は右過誤を記録により確認し得るから、被告は本件ペナルティを取り消す義務がある。

(三) 本件ペナルティがなければ、原告は本件競技において三位となっていた。

(四) 原告は本件ペナルティによりオートスポーツ誌はいうにおよばず、新聞、テレビなどにも本件ペナルティが公表されたことにより著しく名誉を傷つけられ、かつスポンサーに対する信用も失墜した。

原告の失った名誉と信用を回復するためには、被告をしてオートスポーツ誌の誌面一ページに別紙記載の謝罪広告を掲載させる外方法がない。

7 よって、原告は主位的に被告に対し、本件ペナルティの取消と、謝罪広告の掲載を求める。

(第一次予備的請求)

1 前記のとおり、原告は平成三年八月三日に被告に対し本件ペナルティの取消を求める控訴(本件控訴)を被告に対してした。

2 国内競技規則一三―二(1)によれば、すべての競技参加者は審査委員会が宣告した罰則に対し、被告に控訴する権利を有するにもかかわらず、前記のとおり、被告は国内競技規則一三―五(1)を理由として、これを受理しない。

3 しかし、国内競技規則一三―五(2)によれば、被告に直接控訴する場合には二日間の時間制限があるにすぎないのであり、原告の本件控訴は許されるべきものである。

なお、国際スポーツ法典の第一八五条によれば「ASN(被告)に対し控訴を提起する期間は、控訴を行う意思があることが競技会審査委員会に対し通告されることを条件として、競技会審査委員会の決定の通達の日から起算して二日目をもって消滅する」と規定されており、国内競技規則とは異なる規定であるが、国際スポーツ法典と国内競技規則の両規則にしたがって開催された本件競技の場合には、国内競技規則は、国際スポーツ法典に対する特別法の関係にある。したがって、本件競技については国内競技規則が適用されるのであり、審査委員会もそのことを前提とする報告書を被告に提出している。

4 よって、原告は主位的請求が認められない場合には、予備的に被告に対し本件控訴を受理すべきことを求める。

(第二次予備的請求)

1 本件競技は、ビクトリーサークルクラブ(代表者本田耕介)外二つの国内クラブの主催と被告および国際自動車競技連盟の後援で開催され、参加者には本件競技終了直後に主催者より次のとおり主催者賞が支払われることになっていた。

優勝 金五〇〇万円

二位 金三〇〇万円

三位 金一五〇万円

2 被告(カーナンバー20の自動車)は、前記のおとり、本件ペナルティがなければ、本件競技において三位となっていた。

3 被告は、前記のとおり、審査委員会の決定した本件ペナルティは取消す義務があるのにこれを取り消さず、かつ、原告のした控訴を受理しない。

そのため、原告は前記賞金(金一五〇万円)の支払いを受けられない。

これは、不法行為に該当する。

4 よって、原告は被告に対し、金一五〇万円およびこれに対する平成五年一〇月九日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

なお、本件一連の請求は、本件競技の順位決定とか一周減算という罰則を課した判定に対しその当否を求めるものではない。

本件競技は国際スポーツ法典とその付則、国内競技規則とその付則などにしたがって運営され、主催者、競技参加者および公認者である被告はこれら規則にしたがって権利を有し義務を負うところ、本件訴訟は、被告がこれら規則に違反し、原告の有する控訴権を不法に侵害し、これがために原告は控訴における審問と裁定を受ける権利を奪われていることに対して権利の回復を求めるもので、被告による本件控訴却下は原告に対する不法行為に該当するものである。

二  請求原因に対する被告の認否

(主位的請求について)

1 原告の主位的請求1の(一)は認める。同1(二)のうち、本件競技に国内競技規則が適用されることは否認する。その余は認める。

国内競技規則は被告が国内競技のために制定した国内規則であって外国からの参加を許さない競技会に限って適用される。本件競技は国際格式の競技であり、国際競技である以上、そこで、適用されるのは国際スポーツ法典とその付則であって、国内競技規則は適用されない。

このことは「一九九三年全日本フォーミュラ三〇〇〇選手権統一規則」(乙第五号証)にも明記されている(四七条C項)。

2 同2は認める。但し、場内アナウンスでの発表の有無および審判員が原告主張の書面を提示した周回数は知らない。

3 同3は争う。

原告主張のとおりの旗による表示がされたことは争わないが、カーナンバー20の自動車が追越禁止区間内での追越しをしていないことは否認する。

コントロールラインに近似する地点に設置されたモニター画面によれば、カーナンバー20およびカーナンバー25の両自動車は同タイムであるが、これは両車の一部が重なり合っていたために両車を一台として読み取ったためにすぎない。このような場合の優劣は計時委員の肉眼で判断されるところ、本件競技の計時委員の肉眼による判定ではカーナンバー20の自動車はカーナンバー25の自動車よりおくれてコントロールラインを通過したことが現認されている。また、七周目のラップタイムはあくまでも、「過去」のタイムに過ぎず、「次の瞬間」を断定することにはつながらない。時計委員の判定によれば、コントロールライン通過の際カーナンバー20の自動車は、カーナンバー25の自動車よりおくれていたのであるから、コントロールラインからわずか二〇メートルしか離れていない追越禁止区間の開始点であるメインポスト(黄旗の不動表示地点)通過時においてもカーナンバー20の自動車はカーナンバー25の自動車よりおくれていた可能性が大きい。追越禁止区間内は原則として順位を変更せずに保持しなければならない義務があり、メインポスト通過のあとカーナンバー25の自動車を抜き去れば追越違反が成立する。

4 同4は否認する。

5 同5(一)、(二)は認める。但し、被告は、原告の控訴を受理した上で控訴を却下している。

6 同6(一)のうち国内競技規則に原告主張のような条項が存在することは認めるが、これをもって被告に「義務」があり、原告に「権利」があるとはいえない。同6(二)は争う。同6(三)は認める。同6(四)は争う。

(第一次予備的請求について)

1 第一次予備的請求の請求原因1は認める。

2 同2のうち、原告に控訴権があることは認めるが、その余は争う。

被告は控訴を受理した上で却下している。

3 同3は争う。

本件競技には国内競技規則は適用されない。

(第二次予備的請求について)

1 第二次予備的請求の請求原因1、2は認める。

2 同3は争う。被告には本件ペナルティを取り消す義務はない。

なお、原告は本件競技において八位に入賞し、賞金六〇万円を獲得している。

三  被告の主張

1  国内競技規則によれば、すべての競技参加者は審査会が宣告した罰則または行った裁定に対し、被告に控訴する権利をもつが、この控訴を受けて裁定を行うのが被告のモータースポーツ審査委員会である。モータースポーツ審査委員会が行った裁定に不服な場合、さらに中央審査委員会に控訴することができることとされている(国内競技規則一三―二)。

2  しかるに、原告は、この中央審査委員会に上訴することが可能であるにもかかわらず、その手続を無視して本件訴訟を提起しているのである。

四  被告の主張に対する原告の認否、反論

原告が中央審査委員会に上訴をしていないことは認めるが、モータースポーツ審査委員会に対する上訴機関として中央審査委員会が存するというのは国内競技規則上は根拠がない。

第三  証拠関係

証拠の関係は、本件記録中の書証目録調書に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

(主位的請求について)

一 主位的請求について考えるに、本件主位的請求は、本件競技に原告が出場させたカーナンバー20の自動車について競技審査委員会から課された本件ペナルティの取り消しを被告に求め、かつ、被告に対し本件ペナルティを課したことが誤りであることを前提とする謝罪広告を求める請求であるが、右主位的請求のうち、本件ペナルティの取り消しを求める請求は、司法審査の対象とならないものと解する。その理由は次のとおりである。

1  国家制度としての民事訴訟制度は、国家権力に基づき私人間の生活関係上の紛争又は利害の衝突の解決調整を図ることによって、これに基づく私人の生活上の障害や危険を除去すると共に、社会の秩序を保持することを目的とするのであり、その意味で、裁判所は、私人間の紛争すべてにわたって審査機能を有するのではなく、特に、その紛争が法律上の紛争といい得るものに限って司法審査を加えるのである(裁判所法三条参照。)。

したがって、単なる学術上の争いや、宗教的信念の争い等の場合とならんでスポーツ競技における順位、優劣等の争いについても、それが、私人の法律上の地位に直接影響を与えるものではない場合には、これが、司法審査の対象となるものでないことは明らかである。

2  そこで、本件主位的請求のうち、本件ペナルティの取り消しを求める請求についてみるに、右請求は、本件競技において本件ペナルティが課せられなければカーナンバー20の自動車が獲得したであろう順位の確認を求める請求(これはスポーツの順位そのものを訴訟の対象とするものであるから、当然不適法である。)そのものではないが、その実質において本件競技の順位の確認を求める請求となんら異ならないといわなければならない。なぜならば、本件競技の順位を定める判断は、当然、本件ペナルティが適当か否かの判断を包含するのであり、原告の主張を前提とする限り、本件ペナルティの有無によって、自動的にカーナンバー20の自動車の順位は決定される関係にあるからである。また、当裁判所がその請求を認容したからといって、その判決の効力によって直接原告の有する法律上の地位に影響があるわけでもない。したがって、本件ペナルティの取り消しを被告に求める請求は、法律上の争訟に該当しない請求として不適法なものといわざるを得ない。

してみれば、原告の主位的請求のうち、本件ペナルティの取り消しを求める請求は、被告が本件ペナルティの取り消しをなし得る地位にあるか否か、あるいは本件ペナルティの基礎となった事実関係がどのようなものであるかに関係なく訴えの利益がないものというべきであるから却下を免れない。

二  次に本件主位的請求のうち、謝罪広告を求める請求についてであるが、右請求がいかなる法律的根拠によるものかは明確ではないが、これが不法行為(名誉毀損)に基づく請求であるとすれば、これは理由がない。なぜならば、本件ペナルティを課したのが被告でないことは被告の主張に徴して明らかであり、原告主張の事実関係を前提としても、被告の過失による行為が直接原告の名誉を毀損したことにはならない。のみならず、被告が公然事実を摘示したものでもないからである。また、この請求が不法行為以外の根拠によるものであるとすれば、そのような請求を法は容認していない。民法七二三条は名誉毀損の場合に限って名誉回復の方法として適当な処分を命じる権能を裁判所に与えているのであって、それ以上の場合には謝罪広告を求めることはできないと解されるからである。

してみると、原告の謝罪広告を求める請求は、その主張自体失当であるというべきであるから、棄却を免れない。

(第一次予備的請求について)

一  第一次予備的請求について考えるに、第一次予備請求は、本件ペナルティについて被告は原告の不服申立て(控訴)を受理せよ。との内容の請求であるが、被告に対して本件ペナルティの取り消しを求める請求が民事訴訟としてはなし得ない以上、被告に対して不服申立てをすることができるか否かのみを取り上げて訴訟の対象とすることに意味がないことはいうまでもない。このような請求を認容する判決をしたとしても、もとより原告の有する法律上の地位にはまったく影響がないといわざるを得ない。

二  してみれば、原告の第一次予備的請求は、訴えの利益がなく、却下を免れない。

(第二次予備的請求について)

一  第二次予備的請求について考えるに、第二次予備的請求は被告が本件ペナルティの取り消しをしないことにより、原告は本件競技で本来獲得し得るはずの三位の賞金(一五〇万円)を獲得することができないことを理由として、被告に不法行為があるとするものである。

二  しかしながら、本件競技の主催者が被告でなく、被告は賞金の支払者でもないことは原告の自認するところであり、そうであるとすれば、直接、原告は本件競技の主催者に対して、三位の賞金の支払請求をすれば足りるはずである。したがって、被告が本件ペナルティを取り消すか否かに関係なく、原告は本件競技の主催者に金員の支払請求をなし得るし、被告が本件ペナルティを取り消さないことによって、原告の権利を侵害したともいえないから、被告に不法行為は成立しない。

三  また、被告の注意義務についてこれをみても、一般に、スポーツ競技における競技参加者のルール違反に対する制裁は、当該競技において合意されている審判者にある程度の裁量権があることはいうまでもないところであって、仮に当該の判定により競技参加者の法律上の地位に影響が生じ、例外的に司法審査の対象となるとしても、明白に不当な判定でない限り判定者に注意義務違反の問題は生じないとみるのが相当である。本件についてこれをみるところ、本件ペナルテイについて審査委員会のした判定が明白に不当なものとはいえない。コントロールライン通過時にカーナンバー20の自動車とカーナンバー25の自動車はほぼ並走状態にあり、その後追越禁止区間内でカーナンバー20の自動車がカーナンバー25の自動車より前に出たことは被告において明らかに争わないところ、判定の要点はコントロールライン通過後二〇メートルのメインポスト上においてカーナンバー20の自動車とカーナンバー25の自動車のどちらかが前に出ていたか(もしくはまったく並んでいたか。)にある。そして、本件競技が一〇〇〇分の一秒単位で優劣を争う競技であるとすれば、メインポストに写真判定機でも備えつけない限り客観的に厳密な判断を下すことはできない(弁論の全趣旨によれば、メインポストにそのような判定機の備付けはないようである。)。そうとすれば、審査会の判断が優先されるべきものであることは言をまたない。

四  以上の次第で、第二次予備的請求も、また、棄却を免れない。

(結論)

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官綿引穣)

別紙おわび

平成五年八月一日スポーツランドSUGOにおいて当連盟が公認し統括する全日本F三〇〇〇選手権大会第六戦において、カーナンバー20のアンドリュー・G・スコット選手に対し競技会審査委員会がなした黄旗追越禁止違反による一周減算のペナルティは明らかに誤りでしたので、その取消とアンドリュー・G・スコット選手の三位入賞をここに認定し公表いたします。

当連盟の間違った決定により不利益をうけた有限会社ステラインターナショナル(代表者代表取締役福井清志殿)とアンドリュー・G・スコット選手に心からおわび申し上げ、その名誉を回復致します。

以上

条件

(1) 掲載場所は、その誌面の全日本F三〇〇〇選手権に関する記事を掲載したページの次の一ページとする。

(2) 記載モノクロオフセットとする。

(3) 「おわび」の見出しは本文の二倍活字とする。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例